昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。
そして今日も、少年審判所が保護処分を決定するまさにそのための手続である
審判についてご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法第45条には、「審判ハ之ヲ公行セス但シ少年審判所ハ
本人ノ親族、保護事業ニ従事スル者其ノ他相當」(そうとう)「ト認ムル者ニ
在席セシムルコトヲ得」と規定されていました。つまり、旧法では審判は
非公開でしたが、少年審判所は本人の親族、保護事業に従事する者
その他相当と認める者に在席させることができました。そして、実を言うと、
旧法で審判の方式について定めた条文はこの第45条だけでした。
 これに対して、現行法でも審判の方式について定めている条文は、
以下に引用する第22条だけです。
「 (審判の方式)
第二十二条 審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、
非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければ
ならない。
2 審判は、これを公開しない。
3 審判の指揮は、裁判長が行う。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 現行法第22条第2項、つまり「2 審判は」から「公開しない」までの
部分をご覧になればお分かりの通り、現在でも少年審判は非公開です。
 ただし、少年審判規則第29条には「裁判長は、審判の席に、少年の親族、
教員その他相当と認める者の在席を許すことができる。」と規定されています。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20150601syounenshinpankisoku.pdf
ですから、裁判長の許可があった場合に限ってですが、少年審判に
少年の親族、教員その他相当と認められた者が在席することもあります。
「教員」が明記されているかいないかが、現在の制度と旧法の違いと
言えなくはないと思います。
 ですが、現行法では、以下の場合に限ってですが、家裁は被害者等に対して、
審判の傍聴を許すことができると規定されています。
「(被害者等による少年審判の傍聴)
第二十二条の四 家庭裁判所は、最高裁判所規則の定めるところにより
第三条第一項第一号に掲げる少年に係る事件であつて次に掲げる罪のもの
又は同項第二号に掲げる少年(十二歳に満たないで刑罰法令に触れる行為を
した少年を除く。次項において同じ。)に係る事件であつて次に掲げる罪に
係る刑罰法令に触れるもの(いずれも被害者を傷害した場合にあつては、
これにより生命に重大な危険を生じさせたときに限る。)の被害者等から、
審判期日における審判の傍聴の申出がある場合において、
少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を
考慮して、少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときは、
その申出をした者に対し、これを傍聴することを許すことができる。
一 故意の犯罪行為により被害者を死傷させた罪
二 刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百十一条(業務上過失致死傷等)
の罪
三 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(平成二十五年法律第八十六号)第四条、第五条又は第六条第三項若しくは
第四項の罪
2 家庭裁判所は、前項の規定により第三条第一項第二号に掲げる少年に係る
事件の被害者等に審判の傍聴を許すか否かを判断するに当たつては、
同号に掲げる少年が、一般に、精神的に特に未成熟であることを十分
考慮しなければならない。
3 家庭裁判所は、第一項の規定により審判の傍聴を許す場合において、
傍聴する者の年齢、心身の状態その他の事情を考慮し、その者が著しく不安
又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、その不安又は緊張を
緩和するのに適当であり、かつ、審判を妨げ、又はこれに不当な影響を
与えるおそれがないと認める者を、傍聴する者に付き添わせることができる。
4 裁判長は、第一項の規定により審判を傍聴する者及び前項の規定により
この者に付き添う者の座席の位置、審判を行う場所における裁判所職員の
配置等を定めるに当たつては、少年の心身に及ぼす影響に配慮しなければ
ならない。
5 第五条の二第三項の規定は、第一項の規定により審判を傍聴した者又は
第三項の規定によりこの者に付き添つた者について、準用する。
(弁護士である付添人からの意見の聴取等)
第二十二条の五 家庭裁判所は、前条第一項の規定により審判の傍聴を
許すには、あらかじめ、弁護士である付添人の意見を聴かなければならない。
2 家庭裁判所は、前項の場合において、少年に弁護士である付添人がない
ときは、弁護士である付添人を付さなければならない。
3 少年に弁護士である付添人がない場合であつて、最高裁判所規則の定める
ところにより少年及び保護者がこれを必要としない旨の意思を明示したときは、前二項の規定は適用しない。
4 第二十二条の三第三項の規定は、第二項の規定により家庭裁判所が
付すべき付添人について、準用する。」
 なお、ここでの「被害者等」とは、「被害者又はその法定代理人若しくは
被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合における
その配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹」です(現行法第5条の2第1項)。

Ⅱ 第2に、話を旧法に戻しますと、その第46条には「少年審判所審理ヲ
終ヘタルトキハ第四十七條乃至」(ないし)「第五十四条ノ規定ニ依リ
終結處分」(しょぶん)「ヲ爲スヘシ」と規定されています。
 ここでの「第四十七條」は、「刑事訴追(そつい)の必要があると認めた
ときは事件を管轄裁判所の検事に送致すべし」という意味の規定ですが、
この規定については後日ご説明します。
 また、旧法の第48条から第54条までは旧法の定めていた保護処分、
つまり、「一 訓戒ヲ加フルコト、二 学校長ノ訓戒ニ委(まか)スルコト、
三 書面ヲ以(も)テ改心(かいしん)ノ誓約ヲ爲(ナ)サシムルコト、
四 條件(じょうけん)ヲ附(ふ)シテ保護者ニ引渡スコト、
五 寺院、教會、保護團體(ほごだんたい)又ハ適富(てきとう)ナル者ニ
委託スルコト、六 少年保護司ノ観察ニ付スルコト、七 感化院(かんかいん)
ニ送致スルコト、八 矯正院ニ送致スルコト、九 病院ニ送致又ハ
委託スルコト」(旧法第4条第1項)を言い渡す際の手続について定めたものです。
しかし、やや細かい規定ですので、詳しいご説明は割愛させていただきます。
 それはともかく、旧法と現行法では大きな違いがあります。
それは、現行法第23条第2項には「家庭裁判所は、審判の結果、
保護処分に付することができず、又は保護処分に付する必要がないと
認めるときは、その旨の決定をしなければならない。」という
規定があるのですが、旧法にはこれに相当する規定がないという違いです。
 したがってまず、旧法でも、刑罰法令に触れる行為をした疑い、または、
刑罰法令に触れる行為をする虞があるとして少年審判所に通告または
送致された少年が、実は刑罰法令に触れる行為をしていなかった、
または刑罰法令に触れる行為をする虞がなかったと判断されたケースは
あり得た筈なのに、その場合どうしていたのだろうかという疑問が
生じてきます。お恥ずかしい限りですが、この点については全く不勉強
ですので、今後の研究課題とさせていただかざるを得ません。
 また、旧法では「保護処分に付する必要がない」ことを理由とした
不処分決定がない理由は簡単です。それは旧法では、「訓戒ヲ加フルコト」や
「書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ爲(ナ)サシムルコト」といった、
現行法の下では審判不開始決定や不処分決定に伴って行われている
「保護的措置」に相当するものまで正式の保護処分として定められていた
という理由です。

Ⅲ 長くなりました。これでようやく、旧少年法の下で保護処分を
決定するための手続のあらましについてのご説明を終えることとします。
そして、旧法には、少年に対する刑事手続や刑事処分についても
特別な定めがあるのですが、これらについてご説明するのは、
年が明けて来年の1月4日からにさせていただきます。



昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。
今日はいよいよ、少年審判所が保護処分を決定するまさにそのための手続である
審判についてご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法第19条には「少年審判官ハ單獨」(たんどく)「ニテ
審判ヲ爲」(な)「ス」と規定されていました。つまり、旧法の下では、
審判は常に少年審判官単独で行われていました。
 これに対して、現行法では、2000年までは裁判官単独で審判が
行われていました。
 しかし、2000年改正以降は、「合議体で審判又は審理及び裁判をする旨の
決定を合議体でした事件」は裁判官の合議体で取り扱うこととされました
(裁判所法第31条の四第2項第1号)。この場合の合議体の裁判官の員数は、
「三人とし、そのうち一人を裁判長」とします(裁判所法第31条の四第3項)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000059

Ⅱ 第2に、旧法第43条第1項には「審判期日ニハ少年審判官及書記
出席スヘシ」と規定されていました。これは当然です。現行の少年審判規則
第28条第1項にも、「審判の席には、裁判官及び裁判所書記官が、
列席する。」と規定されています。

Ⅲ 第3に、旧法第43条第2項には「少年保護司ハ審判期日ニ出席スルコトヲ
得」と規定されていました。でも、これを逆に言うと、旧法の下では
少年保護司は必ずしも審判期日に出席しなくてもよかったのです。
 これに対して、少年審判規則第28条第2項には、「家庭裁判所調査官は、
裁判長の許可を得た場合を除き、審判の席に出席しなければならない。」と
規定されています。つまり現在では、家庭裁判所調査官は、
原則として審判の席に出席する義務があるのです。

Ⅳ 第4に、旧法第43条第3項には「審判期日ニハ本人、保護者及附添人ヲ
呼出」(よびだ)「スヘシ但シ實益」(じつえき)「ナシト認メタルトキハ
保護者ハ之ヲ呼出サザルコトヲ得」と規定されていました。つまり、゜へ
旧法の下では、少年審判官が「実益がない」と認めた場合には、
保護者を呼び出す必要がなかったのです。
 これに対して、少年審判規則第25条第2項には「審判期日には、
少年及び保護者を呼び出さなければならない。」と規定されています。
つまり、現行法の下では、裁判官または裁判長は、たとえ「実益がない」
と認めたとしても、保護者を呼び出す義務を有しているのです。
 また、少年審判規則第28条第3項によりますと「少年が審判期日に
出頭しないときは、審判を行うことができない。」とされています。
 なお、旧法では附添人も呼出の対象とされていました。これに対して、
少年審判規則第28条第4項では、「付添人は、審判の席に出席することが
できる。」と規定され、同第5項では、「家庭裁判所は、審判期日を付添人に
通知しなければならない。」と規定されています。

Ⅴ 第5に、旧法第44条第1項では「少年保護司、保護者及附添人ハ審判ノ
席ニ於テ意見ヲ陳述スルコトヲ得」と規定されていました。一見すると
当然のことを規定しているようですが、本人が意見を陳述できるとは
規定されていません。
 これに対して、少年審判規則第30条には「少年、保護者、付添人、
家庭裁判所調査官、保護観察官、保護司、法務技官及び法務教官は、
審判の席において、裁判長の許可を得て、
意見を述べることができる」と規定されています。つまり現在では、
少年も、裁判長の許可を得てですが、審判の席で意見を述べることが
できます。
 なお、ここでの「保護司」は、旧法の「少年保護司」と
紛らわしいですが、「社会奉仕の精神をもつて、犯罪をした者の改善及び
更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、
もつて地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することを、
その使命とする」人たちで、1)保護観察、「つまり犯罪や非行をした
人たちと定期的に面接を行い、更生を図るための約束事(遵守事項)を
守るよう指導するとともに、生活上の助言や就労の手助け等を行」い、
2)生活環境の調整、つまり少年院や刑務所に収容されている人が、
釈放後にスムーズに社会復帰できるよう、釈放後の帰住予定地の調査、
引受人との話合い等を行い、必要な受け入れ態勢を整え」ることを行い、
3)犯罪予防活動、つまり「犯罪や非行を未然に防ぐとともに、罪を犯した人の
更生について理解を深めるために、世論の啓発や地域社会の浄化に
努める」ことを行います。
https://www.kouseihogo-net.jp/hogoshi/about.html
 また、「法務技官」とは、「法務省において技術を掌る官職の
官名(技官)で」す。「国家公務員総合職試験並びに法務省専門職員
(人間科学)採用試験で採用される矯正心理専門職の他、選考採用で
採用される医療従事者、作業専門官があ」ります。
 このうち矯正心理専門職(法務技官(心理) )の職務内容は以下の通りです。
「少年鑑別所では、法務教官に併任され法務技官兼法務教官として
勤務」します。「入所した少年に対して面接や各種心理検査を行い、
知能や性格等の資質上の特徴、非行に至った原因、今後の処遇上の指針を
明らかに」します。「結果は、『鑑別結果通知書』として、家庭裁判所に
送付され(収容審判鑑別)、審判や少年院・保護観察所での指導・援助に
活用され」ます。また、家庭裁判所の審判決定により、少年院に送致された
少年や保護観察処分になった少年にも、専門的なアセスメント機能を活用して
継続的に関与(処遇鑑別)」します。「これらに加え、心理学に関する
専門的な知見を生かして、地域社会の非行・犯罪の防止に貢献するため、
一般の方や関係機関等からの依頼に応じ、相談・助言や心理検査等を
行っており、学校等の関係機関と連携した非行防止や青少年の
健全育成のための活動にも積極的に取り組んでいる(地域援助)。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E5%8B%99%E6%8A%80%E5%AE%98
 そして、「法務教官」は主として、少年院に送致された非行少年への
指導・支援を行います。
https://www.moj.go.jp/moj/KYOUSEI/SAIYO/houmukyoukan/houmukyoukan.html

Ⅵ 第6に、話を旧法に戻しますと、その第44条第2項には、少年保護司、
保護者及び附添人が審判の席で意見を陳述する場合には「本人ヲ
退席セシムヘシ但シ相當」(そうとう)「ノ事由アルトキハ本人ヲ
在席セシムルコトヲ得」と規定されていました。つまり、旧法の下では、
少年保護司、保護者及び附添人が審判の席で意見を陳述する場合には、
原則として本人を退席させなければならず、相当の事由があるときに
限って在席させることができたのです。
 このような規定は現行少年法や少年審判規則にはありません。ただ、
少年審判規則には以下のような規定があります。
「第三十一条 裁判長は、適正な審判をするため必要があると認めるときは、
発言を制止し、又は少年以外の者を退席させる等相当の措置をとることが
できる。
2 裁判長は、少年の情操を害するものと認める状況が生じたときは、
その状況の継続中、少年を退席させることができる。」
 つまり現在では、少年が退席させられることがありうるのは、
「少年の情操を害するものと認める状況が生じたとき」で、
「その状況の継続中」に限られています。

Ⅶ なお、現行法では、2000年の改正以降、家裁は、
犯罪少年に係る事件であって、「死刑又は無期若しくは長期三年を超える
懲役若しくは禁錮に当たる罪のものにおいて、その非行事実を認定するための
審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは、決定をもつて、
審判に検察官を出席させることができ」ます(現行法第22条第1項)。
この決定があった事件において、検察官は、「その非行事実の認定に
資するため必要な限度で、最高裁判所規則の定めるところにより、
事件の記録及び証拠物を閲覧し及び謄写し、審判の手続
(事件を終局させる決定の告知を含む。)に立ち会い、
少年及び証人その他の関係人に発問し、
並びに意見を述べることができ」ます(現行法第22条第3項)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 そして、このような検察官関与に関する規定は、旧法にはありませんでした。

Ⅷ と、ここまで書いてきたところで、今日も時間がなくなってきて
しまいました。少年審判における保護処分を決定するための手続の続きに
ついては、明日ご説明します。



昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。

Ⅰ 旧法第42条には次のような規定がありました。
「第四十二條 少年審判所審判ヲ開始スル場合ニ於」(おい)「テ
   必要アルトキハ本人ノタメ附添人ヲ附スルコトヲ得
  本人、保護者又ハ保護團體」(だんたい)「ハ少年審判所ノ許可ヲ
   受」(うけ)「テ附添人ヲ選任スルコトヲ得
  附添人ハ辯護士」(べんごし)「、保護事業ニ従事スル者又ハ
   少年審判所ノ許可ヲ受ケタル者ヲ以」(も)「テ之ニ充ツヘシ」

Ⅱ 第1に、旧法第42条第1項、つまり「少年審判所」から「附スルコトヲ得」
までの部分は、少年審判所の職権による国選附添人付与を定めています。この
国選附添人の対象となる事件は、「少年審判所が審判を開始する場合において
必要あるとき」と無制限です。ただし、第3項-つまり「附添人」から
「充ツヘシ」までの部分-の規定のため、この国選附添人は必ずしも
弁護士でなくても構わなかったのです。
 これに対して、現行法では以下のような場合に弁護士である国選付添人の
選任を定めています。
 1. 「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる」
犯罪少年に係る事件で、「その非行事実を認定するための審判の手続に
検察官を関与させる必要がある」と判断し、審判に検察官を出席させる
決定をして、少年に弁護士である付添人がないとき(現行法第22条の3第1項・
第22条の2第1項)。なお、この場合、家裁は必ず弁護士である国選付添人を
付さなければなりません。
 2.「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる」
犯罪少年に係る事件または「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役
若しくは禁錮に当たる罪」に係る触法少年事件に係る事件で、
少年法第17条第1項第2号の少年鑑別所に送致する観護措置がとられており、
「かつ、少年に弁護士である付添人がない場合において、事案の内容、
保護者の有無その他の事情を考慮し、審判の手続に弁護士である付添人が
関与する必要があると認めるとき」。この場合には、家裁は弁護士である
付添人を付することができます(現行法第22条の3第2項・第22条の2第1項)。
3.被害者等に少年審判の傍聴を許す(現行法第22条の4第1項)前提として、
家裁は弁護士である付添人の意見を聴かなければならない(現行法第22条の5
第1項)のですが、その場合少年に少年に弁護士である付添人がないとき
(現行法第22条の5第2項)。この場合、家裁は弁護士である付添人を
付さなければなりません(現行法第22条の5第2項)。しかし、
「最高裁判所規則の定めるところにより少年及び保護者がこれを
必要としない旨の意思を明示したとき」、つまり少年及び保護者が
「弁護士である付添人とその意見を聴く費用はない」とはっきりと
述べた場合には、弁護士である付添人を付す必要はありません。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168

Ⅲ 第2に、話を旧法に戻しますと、その第42条第2項によりますと、
本人、保護者または保護団体は少年審判所の許可を受けて附添人を
選任することができました。
 これに対して現行法第10条では、付添人について以下の通り定めています。
「(付添人)
第十条 少年及び保護者は、家庭裁判所の許可を受けて、付添人を
選任することができる。ただし、弁護士を付添人に選任するには、
家庭裁判所の許可を要しない。
2 保護者は、家庭裁判所の許可を受けて、付添人となることができる」
 第10条第1項但し書き-つまり「ただし」から「要しない」の部分-を
ご覧になればお分かりの通り、現行法では弁護士を付添人に選任するために、
家裁の許可は必要ありません。これは旧法との大きな違いであり、
それだけ現行法は少年の権利を重視していると言えます。
 また、第2項-つまり「保護者」から「できる」までの部分-を
ご覧になればお分かりの通り、現行法では、
家裁の許可を受ければの話ですが、保護者もまた付添人になることができます。
この点も、旧法との大きな違いです。

Ⅳ  と、ここまで書いてきたところで、今日も時間がなくなってきて
しまいました。少年審判所における保護処分を決定するための手続の続きに
ついては、明日ご説明します。




  

昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法第40条には以下のような規定がありました。
「第四十條 少年審判所調査ノ結果ニ因」(よ)「リ審判ヲ開始スヘキモノト
   思料」(しりょ)「シタルトキハ審判期日ヲ定ムヘシ」
 現行法第21条にも以下のような類似の規定があります。
「(審判開始の決定)
第二十一条 家庭裁判所は、調査の結果、審判を開始するのが相当であると
   認めるときは、その旨の決定をしなければならない。」
 ただし、旧法と違って現行法では、家裁は審判開始決定をする際に
審判期日を定めることを義務づけられてはいません。

Ⅱ 第2に、旧法第41条には以下のような規定がありました。
「第四十一條 審判ヲ開始セサル場合ニ於」(おい)「テハ第三十七條ノ
   處分」(しょぶん)「ハコレヲ取消スヘシ
  第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニコレヲ準用ス」
 まず、第1項(「審判ヲ」から(「取消スヘシ」までの箇所)における
「第三十七條ノ處分」とは昨日ご紹介した「仮の保護処分」のことでして、
以下のような内容です。
 「一 條件ヲ附シ又ハ附セスシテ保護者ニ預クルコト
  二 寺院、教會、保護團體」(だんたい)「又は適當ナル者ニ
     預クルコト
  三 病院ニ委託スルコト
  四 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
  已」(や)「ムコトヲ得サル場合ニ於」(おい)「テハ本人ヲ
   假」(かり)ニ感化院又ハ矯正院ニ委託スルコト゜
  第一項第一號」(ごう)」「乃至」(ないし)「第三號ノ處分アリタルトキハ
   本人ヲ少年保護司ノ観察ニ付ス」こと。
 次に第2項の「第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニコレヲ準用ス」とは、
「審判を開始しないため仮の保護処分を取消す場合には、そのことを
速やかに保護者に通知しなければならない」という意味です。
 (なお、「準用」とは、「ある事柄を規律するためにつくられた法規を,
それと性質を異にする別の事柄に対して,必要な若干の修正を加えて
あてはめること」です。
 https://kotobank.jp/word/%E6%BA%96%E7%94%A8-78720
 また、第三十九條とは、次のような規定です。
「第三十九條 前三條ノ場合ニ於テハ速」(すみやか)「ニ其」(そ)
   「ノ旨」(むね)ヲ保護者ニ通知スヘシ」
 つまり、旧第39条は、「少年審判所が少年保護司をして本人を同行させたり、
仮の保護処分に付したり、仮の保護処分を取消しまたは変更する際には、
速やかにそのことを保護者に通知すべきである」という意味です。)

Ⅲ と、ここまで書いたところで今日は時間がなくなってきてしまいました。
少年審判所における保護処分を決定するための手続の続きについては、
明日ご説明します。

 


昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法の第36条には次のような規定がありました。
「第三十六條 少年審判所ハ必要ニ依リ何時ニテモ少年保護司ヲシテ本人ヲ
   同行シセシムルコトヲ得」
 これと似た規定は、以下に引用する現行法の第11条から第13条までに
あります。
「(呼出、同行)
第十一条 家庭裁判所は、事件の調査又は審判について必要があると
 認めるときは、少年又は保護者に対して、呼出状を発することができる。
2 家庭裁判所は、正当の理由がなく前項の呼出に応じない者に対して、
 同行状を発することができる。
(緊急の場合の同行)
第十二条 家庭裁判所は、少年が保護のため緊急を要する状態にあつて、
 その福祉上必要であると認めるときは、前条第二項の規定にかかわらず、
 その少年に対して、同行状を発することができる。
2 裁判長は、急速を要する場合には、前項の処分をし、
 又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
(同行状の執行)
第十三条 同行状は、家庭裁判所調査官がこれを執行する。
2 家庭裁判所は、警察官、保護観察官又は裁判所書記官をして、
同行状を執行させることができる。
3 裁判長は、急速を要する場合には、前項の処分をし、又は合議体の
構成員にこれをさせることができる。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 ただし、現行法は、同行状を発する前に呼出状を発することを
家裁に義務づけています。

Ⅱ 第2に、旧法の第37条から第39条までには以下のような規定がありました。
「第三十七條 少年審判所ハ事情ニ従ヒ本人ニ對」(たい)「シ假」(かり)ニ
   左」(さ)「ノ處分」(しょぶん)「ヲ爲スコトヲ得
  一 條件ヲ附シ又ハ附セスシテ保護者ニ預クルコト
  二 寺院、教會、保護團體」(だんたい)「又は適當ナル者ニ
     預クルコト
  三 病院ニ委託スルコト
  四 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
  已」(や)「ムコトヲ得サル場合ニ於」(おい)「テハ本人ヲ
   假」(かり)ニ感化院又ハ矯正院ニ委託スルコトヲ得
  第一項第一號」(ごう)」「乃至」(ないし)「第三號ノ處分アリタルトキハ
   本人ヲ少年保護司ノ観察ニ付ス
 第三十八條 前條ノ處分ハ何時ニテモ之ヲ取消シ又ハ變更」(へんこう)
   「 スルコトヲ得
 第三十九條 前三條ノ場合ニ於テハ速」(すみやか)「ニ其」(そ)
   「ノ旨」(むね)ヲ保護者ニ通知スヘシ」
現行法には、このような「仮の保護処分」に関する規定はありません。
ですが、旧法第37条第1項の第一号(一の箇所)から第四号(四の箇所)
および第3項(「第一項」から「付す」の箇所)に似ている現行法の規定として、
次のような第25条の規定があります。
「第二十五条 家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため
必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の
観察に付することができる。
2 家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることが
 できる。
一 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二 条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。」
 そして、現行法そのものには規定がないのですが、少年審判規則
第40条第6項には、現行法第25条の「家庭裁判所調査官の観察に付する
決定は、いつでも、取り消し又は変更することができる。」と規定されて
います。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20150601syounenshinpankisoku.pdf

Ⅲ また、現行法では少年を仮に児童自立支援施設や少年院に委託すること
が認められていないのは、以下のような観護措置に関する規定があるからです。
「(観護の措置)
第十七条 家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、
次に掲げる観護の措置をとることができる。
一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二 少年鑑別所に送致すること。
2 同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから
二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から
勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3 第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を
超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、
決定をもつて、これを更新することができる。
4 前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。
ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮こに
当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該
犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し
証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを
行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じる
おそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、
更に二回を限度として、行うことができる。
5 第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が
先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。
6 裁判官が第四十三条第一項の請求により、第一項第一号の措置をとつた
場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、
これを第一項第一号の措置とみなす。
7 裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた
場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを
第一項第二号の措置とみなす。この場合には、第三項の期間は、家庭裁判所が
事件の送致を受けた日から、これを起算する。
8 観護の措置は、決定をもつて、これを取り消し、又は変更することが
できる。
9 第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて八週間を超える
ことができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる
決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。
10 裁判長は、急速を要する場合には、第一項及び第八項の処分をし、
又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
(異議の申立て)
第十七条の二 少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は
第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の
申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の
明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。
2 前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてする
ことはできない。
3 第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定を
しなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した
裁判官は、関与することができない。
4 第三十二条の三、第三十三条及び第三十四条の規定は、第一項の異議の
申立てがあつた場合について準用する。この場合において、第三十三条第二項
中「取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に
移送しなければならない」とあるのは、「取り消し、必要があるときは、
更に裁判をしなければならない」と読み替えるものとする。
(特別抗告)
第十七条の三 第三十五条第一項の規定は、前条第三項の決定について
準用する。この場合において、第三十五条第一項中「二週間」とあるのは、
「五日」と読み替えるものとする。
2 前条第四項及び第三十二条の二の規定は、前項の規定による抗告があつた
場合について準用する。
(少年鑑別所送致の場合の仮収容)
第十七条の四 家庭裁判所は、第十七条第一項第二号の措置をとつた場合に
おいて、直ちに少年鑑別所に収容することが著しく困難であると認める事情が
あるときは、決定をもつて、少年を仮に最寄りの少年院又は刑事施設の特
に区別した場所に収容することができる。ただし、その期間は、
収容した時から七十二時間を超えることができない。
2 裁判長は、急速を要する場合には、前項の処分をし、
又は合議体の構成員にこれをさせることができる。
3 第一項の規定による収容の期間は、これを第十七条第一項第二号の措置に
より少年鑑別所に収容した期間とみなし、同条第三項の期間は、少年院又は
刑事施設に収容した日から、これを起算する。
4 裁判官が第四十三条第一項の請求のあつた事件につき、
第一項の収容をした場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、
その収容は、これを第一項の規定による収容とみなす。」

Ⅳ と、ここまで書いたところで、今日は時間がなくなってきてしまいました。
少年審判所において保護処分を決定する手続の続きについては、
明日ご説明します。

昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。

Ⅰ 旧法の第31条、第32条及び第34条には次のような規定がありました。
「第三十一條 少年審判所ノ審判ニ付スヘキ少年アリト
   思料」(しりょ)「シタルトキハ事件ノ關係」(かんけい)
「及本人ノ性行、境遇、經歴、」(けいれき)「心身ノ状況、
   教育ノ程度等ヲ調査スヘシ
  心身ノ状況ニ付」(つい)「テハ成ルヘク醫師」(いし)「ヲシテ
   診察ヲ爲サシムヘシ
 第三十二條 少年審判所ハ少年保護司ニ命シテ必要ナル調査ヲ
   爲サシムルベシ」
「第三十四條 少年審判所ハ參考人」(さんこうにん)「ニ出頭ヲ命シ
   調査ノ爲」(ため)「必要ナル事實」(じじつ)「ノ供述又ハ鑑定ヲ
   爲サシムルコトヲ得
  前項ノ場合ニ於テ必要ト認メタルトキハ供述又ハ鑑定ノ要領ヲ
   録取スヘシ」
 なお、旧法第31条第1項で用いられている「思料」という言葉は、
「思いはかること、考えること」という意味↓です。
https://word-dictionary.jp/posts/4090

Ⅱ 旧法の第31条と第32条に類似した規定は、現行法や少年審判規則にも
存在します。
 第1に、現行法の第8条と第9条には以下のような規定があります。
 「(事件の調査)
第八条 家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、
 審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければ
 ならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から
 家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。
2 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の
 取調その他の必要な調査を行わせることができる。
(調査の方針)
第九条 前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、
 素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識
 特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければ
 ならない。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 第2に、このような少年法第9条の規定を受けて、少年審判規則第11条から
第13条までには、以下のような規定が存在します。
 「(調査の方針・法第九条)
第十一条 審判に付すべき少年については、家庭及び保護者の関係、境遇、
経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況等
審判及び処遇上必要な事項の調査を行うものとする。
2 家族及び関係人の経歴、教育の程度、性行及び遺伝関係等についても、
できる限り、調査を行うものとする。
3 少年を少年鑑別所に送致するときは、少年鑑別所に対し、なるべく、
鑑別上及び観護処遇上の注意その他参考となる事項を示さなければならない。
(陳述録取調書の作成)
第十二条 少年、保護者又は参考人の陳述が事件の審判上必要であると
  認めるときは、これを調書に記載させ、又は記載しなければならない。
2 前項の調書には、陳述者をして署名押印させなければならない。
3 家庭裁判所調査官は、第一項の場合において相当と認めるときは、少年、
 保護者又は参考人の陳述の要旨を記載した書面を作成し、これを同項の
 調書に代えることができる。
(家庭裁判所調査官の調査報告・法第八条)
第十三条 家庭裁判所調査官は、調査の結果を書面で家庭裁判所に報告する
 ものとする。
2 前項の書面には、意見をつけなければならない。
3 家庭裁判所調査官は、第一項の規定による報告の前後を問わず、
少年の処遇に関し、家庭裁判所に対して意見を述べなければならない。」

Ⅲ ただ、これらの現行法の調査に関する規定と旧法のそれを比較すると、
二つの大きな違いがあります。
 第一の違いは、現行法第9条にある「医学、心理学、教育学、社会学
その他の専門的智識…を活用して」という言葉が、旧法には存在しないという
ことです。つまり、現行法の調査の方が旧法より科学的なのです。
 第二の違いは、現行法には存在する「少年鑑別所の鑑別の結果」という
言葉が、旧法には存在しないことです。実は、少年鑑別所は、現行少年法の
制定に合わせて新設されたのです。
 そして、少年鑑別所がどのように鑑別を行うべきかについては、
少年鑑別所法第16条に以下のように規定されています。
 「(鑑別の実施)
第十六条 鑑別対象者の鑑別においては、医学、心理学、教育学、社会学
 その他の専門的知識及び技術に基づき、鑑別対象者について、その非行又は
 犯罪に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、
 その事情の改善に寄与するため、その者の処遇に資する適切な指針を示す
 ものとする。
2 鑑別対象者の鑑別を行うに当たっては、その者の性格、経歴、心身の状況
 及び発達の程度、非行の状況、家庭環境並びに交友関係、在所中の生活及び
 行動の状況(鑑別対象者が在所者である場合に限る。)その他の鑑別を行う
 ために必要な事項に関する調査を行うものとする。
3 前項の調査は、鑑別を求めた者に対して資料の提出、説明その他の必要な
 協力を求める方法によるほか、必要と認めるときは、鑑別対象者又はその
 保護者その他参考人との面接、心理検査その他の検査、前条の規定による
 照会その他相当と認める方法により行うものとする。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC0000000059
 つまり、少年鑑別所による鑑別も、非常に科学的なものなのです。
 これらの二点を併せて考えますと、現行少年法の下で行われる調査の
方が、旧法において行われていたものよりずっと、科学的であると言えます。

Ⅳ と、ここまでご説明したところで、今日も時間がなくなってきて
しまいました。したがって、旧少年法の下における保護処分を
決定するための手続の続きについては、明日ご説明することとします。
昨日のブログに続き、今日も、
少年審判所における保護処分を決定するための手続をご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法では、「少年審判所ニ於」(おい)「テ保護処分ヲ爲スヘキ
少年アルコトヲ認知シタル者ハ之ヲ少年審判所又ハ其ノ職員ニ
通告スヘシ」と規定されていました(旧法第29条)と規定されていました。
 これと似ている規定は、現行法第6条第1項にもあります。それによりますと、
「家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した者は、
これを家庭裁判所に通告しなければならない。」↓と規定されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 ただし、現行法第6条第2項では「警察官又は保護者は、
第三条第一項第三号に掲げる少年について、直接これを家庭裁判所に送致し、
又は通告するよりも、先づ児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)
による措置にゆだねるのが適当であると認めるときは、
その少年を直接児童相談所に通告することができる。」と規定↓されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 つまり、現行法では、虞犯少年については、警察官又は保護者に対して、
家裁への通告又は通告と児童相談所への通告を選択できる権利を
認めています。

Ⅱ 第2に、話を旧法に戻しますと、
第29条の「通告ヲ爲スニハ其ノ事由ヲ開示シ成ルヘク本人及其ノ
保護者ノ氏名、住所、年齢、職業、性行」(せいこう)「等ヲ申立テ且」(かつ)「参考ト爲ルヘキ資料ヲ差出スヘシ」と規定されていました(旧法第30条)。
 ですから、旧法第29条によりますと、「刑罰法令ニ觸ルル行為ヲ爲シ
又ハ刑罰法令ニ觸ルル行為ヲ爲ス虞ノアル少年」を発見した者は誰でも、
その少年を少年審判所に通告すべきとされていたのですが、
そのためにはその事由を開示し、少年本人と保護者の氏名・住所・年齢
だけでなく職業や性行を申し立て、しかも参考資料を差し出さなければ
ならなかったのですから、実際には通告をするのはかなり難しかったのでは
ないかと思われます。
 なお、Ⅰでもご紹介しましたように、現行法でも一般人に対して、
非行少年を家裁に通告する義務を課しています。この「一般人による
通告」の方式については、現行法上では特段の規定を設けてはいませんが、
少年法を具体化するために最高裁が定めた少年審判規則第9条第1項には
以下のように規定されています。
 「家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した者は、
家庭裁判所に通告するには、審判に付すべき事由のほか、なるべく、
少年及び保護者の氏名、年齢、職業及び住居(保護者が法人である場合に
おいては、その名称又は商号及び主たる事務所又は本店の所在地)並びに
少年の本籍を明らかにしなければならない。」
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20150601syounenshinpankisoku.pdf
 つまり、少年審判規則によりますと、一般人による通告を行うためには、
少年又は保護者の性行を明らかにしたり参考資料を差し出したりする義務は
ないことになります。

Ⅲ 第3に、話を再び旧法に戻しますと、「通告ハ書面又ハ口頭ヲ以」(も)
「テコレヲ爲スコトヲ得口頭ノ通告アリタル場合ニ於テハ少年審判所ノ職員
其ノ申立ヲ録取スヘシ」と規定されていました(旧法第30条第2項)。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20150601syounenshinpankisoku.pdf
 これと似ている規定は少年審判規則第9条第2項↑にもあります。
それによりますと、「前項の通告は、書面又は口頭ですることができる。
口頭の通告があつた場合には、家庭裁判所調査官又は裁判所書記官は、
これを調書に記載する。」と規定されています。

Ⅳ と、ここまで書いたところで、今日は時間がなくなってきて
しまいました。少年審判所において保護処分を決定するための手続の
続きについては、明日ご説明することとします。








昨日お約束した通り、今日からは、
旧法における保護処分を決定するための手続についてご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法においては、
「大審院ノ特別権限ニ屬」(ぞく)「スル罪ヲ犯シタル者ハ
少年審判所ノ審判ニ付」することができませんでした(旧法第26条)
ここでの「大審院」とは、「明治憲法下の日本において設置されていた
司法裁判所の中における最上級審の裁判所」です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%AF%A9%E9%99%A2
 そして「大審院の特別権限ニ屬スル罪」とは、「皇室に対する罪に関する
刑法第73条(1947年削除)および第75条(同前)、
内乱に関する第77条ないし第79条の罪」のことです。これらの罪に対しては、
大審院は、「第一審にして終審として」、「予審および裁判を行」いました。
https://japanknowledge.com/contents/nipponica/sample_koumoku.html?entryid=1171
 ですが、明治憲法下において、少年が「大審院の特別権限に属する罪」に
問われたことはありません。

Ⅱ 第2に、以下に記載する者は裁判所又は検事より送致を受けた場合を
除いては少年審判所の審判に付すことができませんでした。
 「一 死刑、無期又ハ短期三年以上ノ懲役若」(もしく)ハ「禁錮二
   該」(あたる)ルヘキ罪ヲ犯シタル者
  二 十六歳以上ニシテ罪ヲ犯シタル者」(旧法第27条)。
 つまり、旧法においては、法定刑の比較的重い罪を犯した者と
16歳以上の犯罪者については刑事手続を原則としていたのです。
 これだけをご覧になった方の中には「旧法の方が良い法律ではないか」
と思われた方も多いでしょう。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
 しかし、例えば強盗罪の法定刑は「五年以上の懲役」↑(刑法第236条)
ですが、コンビニで万引きしようとしたところ店員に見つかって
警察に引き渡されそうになったので突き飛ばして逃げたような場合にも
「事後強盗罪」として、強盗罪と同じ扱いを受けるのです(刑法第238条)。
https://lovingchicken3.diarynote.jp/202111281802349564/
 また、11月28日に書いた↑ように、「『1935年の旧制中学校、実業学校、
高等女学校の進学率は18.5%に過ぎなかった』のです。↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A7%E5%88%B6%E4%B8%AD%E7%AD%89%E6%95%99%E8%82%B2%E5%AD%A6%E6%A0%A1
ですから、この時代に尋常小学校(1941年以降は国民学校)を
卒業した人たちの圧倒的大多数は、工場での単純労働や商店での丁稚奉公や
子守りとしてであれ働いてい」たことを思い出して下さい。

Ⅲ 第3に、刑事手続により審理中の者は少年審判所の審判に付すことが
できませんでした(旧法第28条第1項)。これは当然です。
 また、14歳に満たない者は「地方長官ヨリ送致ヲ受ケタル場合ヲ
除クノ外」(ほか)少年審判の審判に付すことが
できませんでした(旧法第28条第2項)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 これと似た規定は、現行少年法第3条第2項↑にもあります。
それによりますと、「家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び
同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については、
都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、
これを審判に付することができる。」とあります。
 ここで「前項第二号に掲げる少年」とは、「十四歳に満たないで刑罰法令に
触れる行為をした少年」つまり「触法少年」です。そして「同項第三号に
掲げる少年で十四歳に満たない者」とは14歳未満の虞犯少年です。ですから、
現行少年法も、旧法と同じく、14歳未満の少年については、
福祉機関優先主義を採用しています。

Ⅳ と、ここまでご説明してきたところで、本日は時間がなくなってきて
しまいました。少年審判所における保護処分を決定するための手続の
続きについては、明日ご説明します。


 
 
昨日書いたブログでお約束した通り、今日は、
少年審判所には少年審判官の他にどのような職員がいたかご説明します。
Ⅰ 少年審判所には少年審判官の他に、
少年保護司と書記という職員がいました(旧法18条)。
 そして、少年審判官には少年審判所の事務を管理し、
上記の職員を監督する職務がありました(旧法第20条第1項)。
 なお、2人以上の少年審判官が配置された少年審判所においては、
上席者が旧法第20条第1項の規定による職員を監督する職務を
行わなければなりませんでした(旧法第20条第2項)。

https://lovingchicken3.diarynote.jp/202112041741246482/
Ⅱ 少年保護司は、12月4日に書いたブログ↑でご紹介したように、
少年審判官を「輔佐」(ほさ)「シテ審判ノ資料ヲ供シ観察事務ヲ
掌(つかさど)ル」職務を有していました(旧法第23条第1項)。
 つまり、「少年保護司」は、現行法の家庭裁判所調査官の職務
(現行法第8条第2項・第9条・第25条)と
保護観察官の職務を併せて担っていたということもできます。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 そして、少年保護司は「少年ノ保護又ハ教育ニ經驗」(経験)「ヲ有スル者
其」(そ)ノ「他適當」(てきとう)「ナル者ニ對」(たい)「シ司法大臣
之ヲ嘱託スルコトヲ得」(旧法第23条第2項)とされていました。
 なお、「家庭裁判所調査官は家庭裁判所で取り扱っている家事事件,
少年事件などについて,調査を行うのが主な仕事です(裁判所法第61条の2)。」
そして「家庭裁判所調査官になるには,裁判所職員採用総合職試験
(家庭裁判所調査官補)を受験して採用された後,
裁判所職員総合研修所において2年間研修を受けて必要な技能等を
修得することが必要です。」
https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyosakan/index.html
 また、「保護観察官になるためには,国家公務員試験に合格し,
法務省保護局又は更生保護官署(地方更生保護委員会又は保護観察所)に
法務事務官として採用された後,一定の期間,更生保護行政を幅広く
理解するための仕事を経験することが必要です。
 採用試験には,国家公務員採用総合職試験,法務省専門職員(人間科学)
採用試験(保護観察区分)及び国家公務員採用一般職試験があります。
採用事務は,国家公務員採用総合職試験は法務省保護局総務課において,
法務省専門職員(人間科学)採用試験(保護観察官区分)及び
国家公務員採用一般職試験は地方更生保護委員会事務局総務課において
行っています。」
https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo04-01.html

 Ⅲ 話を旧少年法に戻しますと、少年審判所に配置されていた書記は、
「上司ノ指揮ヲ承」(う)「ケ審判ニ關」(かん)「スル書類ノ調製ニ
掌リ庶務ニ従事ス」とされていました(旧法第24条)。
 現在では、家庭裁判所だけでなく各裁判所に裁判所書記官が
配置されています(裁判所法第60条第1項)。
 「裁判所書記官は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管
その他他の法律において定める事務を掌る」(裁判所法第60条第2項)ほか、
「裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の
調査その他必要な事項の調査を補助」します(裁判所法第60条第3項)。
裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に」
必ず従わなければなりません(裁判所法第60条第4項)。ですが、
「裁判所書記官は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の
命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、
自己の意見を書き添えることができ」ます(裁判所法第60条第5項)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000059

Ⅳ なお、現在の家庭裁判所には、家庭裁判所調査官・
裁判所書記官のほかに、裁判所事務官(裁判所法第58条)、
事務局長(裁判所法第59条)、及び裁判所速記官(裁判所法第60条の2)という
職員も置かれているのですが、旧少年法にはこれらの職員に対応する
職員に関する規定は置かれていません。おそらく立法の際に
「必要ない」と判断されたのでしょう。

Ⅴ 長くなりました。以上で旧少年法における少年審判所に
配置されていた職員に関するご説明を終わります。明日からは、
旧法における保護処分を決定するための手続についてご説明します。





12月7日に書いたブログでお約束した通り、
今回からは、旧少年法「ではどんな機関が、
どんな手続きで保護処分を決定することとされていたのか」という
話題についてご説明します。
ですが、長くなりそうですので、保護処分の決定機関についてのご説明と、
保護処分を決定するための手続きについてのご説明は、
章を分けることとします。

Ⅰ 現行少年法で保護処分を決定する機関は、
家庭裁判所です(現行法第24条第1項本文)↓。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000059
 家庭裁判所は、その名の通り裁判所の一種↑(裁判所法第2条第1項)で、
裁判所は司法権が帰属する(日本国憲法第76条第1項)↓司法機関です。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION

Ⅱ これに対して、旧法の下で保護処分を決定していた機関は、
12月4日に書いたブログでも触れましたように、
少年審判所(旧法第15条)という機関です。
https://lovingchicken3.diarynote.jp/202112041741246482/
 この少年審判所は、司法機関ではありませんでした。
「司法権と行政権の中間物だ」(注1)とされていたのです。
 もっとも、少年審判所は司法大臣の監督に属す(旧法第17条)と
されてしました。また、審判を行う少年審判官(旧法第19条)は
司法官である「判事ヲシテ之ヲ兼ネムシムルコトヲ得」(旧法第21条第1項)
とされていましたし、「判事タル資格ヲ有スル少年審判官ハ
判事ヲ兼ヌルコトヲ得」(旧法第21条第2項)とされてしました。
しかし、これらのことは、逆に言うと、旧法においては少年審判官は
判事である必要はなかったことを意味するものでして、
したがって少年審判所は司法機関ではなかったのです。
 もっとも、このように少年審判所を「司法権と行政権の中間物」と
性格づけることに対しては、帝国議会での旧少年法案審議に際して、
清瀬一郎(注2)から次のような批判があったそうです。
「中間物と云ふ事は一体ある筈でない、…何故起案者は、少年審判官を、
最後に審判する人だけは矢張司法官たる資格を有った者から採ると云う
制度を何故御採用にならなかったか、…自由を剥奪するとか、
此等の事をすることは、どうしたって是を源は司法組織に組まぬと云ふと、
行政組織ではいかぬという疑が出来るののである、…矯正院は子供の監獄、
内実は同一である、名前に拘束されてはいかぬ。」「民権に重大なる
關係のあるものは、特別担当の役人に裁判せしむるといふ事が、
今日の法治思想、憲法思想でありまして、国家はそれに依って組織されて
居ります。…憲法のある国では必ずさうである。然るに日本が審判所を
設けて処罰せんとするのは、どういふ差し支えがありますか。」(注3)
ですが、清瀬のこのような批判は、結局容れられませんでした。

 長くなりました。この後に、少年審判所には少年審判官の他に
どのような職員がいたかご説明する必要があります。しかし、
更に長くなりますので、そのご説明は明日に譲らせていただきます。

 (注1)森田明『未成年者保護法と現代社会-保護と自律のあいだ』
   (有斐閣、1999年)216頁。
 (注2)清瀬 一郎(きよせ いちろう、1884年〈明治17年〉7月5日 -
   1967年〈昭和42年〉6月27日)は「大正、昭和時代の日本の弁護士、
  法学者、政治家」です。弁護士としては、治安維持法に反対した
  こともあったのですが、「極東国際軍事裁判で東條英機の弁護人などを
  務め、また政治家としては文部大臣、衆議院議長を歴任」しました。
  そして「衆議院議長在任中の1960年6月19日から20日にかけて、
  衆議院本会議で日米安全保障条約(新安保条約)の採決が行われた。
  採決の前、日本社会党の議員や秘書団が清瀬を議長室に
  閉じ込めていたが、警官隊がこれを排除。清瀬は救出に来た金丸信に
  抱えられて議事堂に入るが、入場の際に扉に左足首
  (日経新聞の記事では右足首とされているが、産経新聞の写真で
  左足首にギプスを巻いているのが確認できる[2])をぶつけて
  骨折している。議長席についた清瀬はそのまま大混乱の中で
  会期延長を強行採決し、日付が変わった直後に条約批准案を
  可決させた[3]。なんとか可決にこぎつけ疲労困憊の清瀬は、
  ソファに横たわりながら記者らの取材を受けた」そうです。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E7%80%AC%E4%B8%80%E9%83%8E
 (注3)森田明・前掲注(1)書216頁。
 昨日お約束した通り、今日は、「現行法の『虞犯少年』に関する規定には、
旧法には存在しなかった『虞犯事由』(現行法第3条第1項第3号の
『イ』から『二』までの箇所)が存在する」という点についてご説明します。
 その前提として、念のために、
現行法第3条第1項の規定を再びご紹介します。
「(審判に付すべき少年)
第三条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
 一 罪を犯した少年
 二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
 三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、
    又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
  イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
  ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
  ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、
     又はいかがわしい場所に出入すること。
  ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 そして、現行法第3条第1項第3号の「その性格又は環境に照して、将来、
罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞」の箇所は「虞犯性」と、
「イ」から「二」までの箇所は「虞犯事由」と、それぞれ呼ばれます。

 今日の日記の冒頭で述べたように、「虞犯事由」は旧法には存在せず、
「人権保障の見地から虞犯性判断に客観性を与えるため現行法で初めて
規定されたもので」す(注1)。
 現行少年法は「少年の健全育成」を目的とします(現行法第1条)。
そのためには、非行の背後にある少年の性格・環境上の問題性という意味の
「要保護性に見合った教育的な措置を適切・有効であり、
犯罪に至らなくても問題行動等があって要保護性があれば、
それに最も相応しい処遇を加えるべきことにある。虞犯制度は、
この保護・教育優先主義の本質的な要請に応え、犯罪に至る前に
少年を立ち直らせようとするもので、保護・教育のために必要・有効なもの
である。」(注2)と指摘されていまして、私のこの指摘そのものには賛成です。
 しかし、それと同時に、現行憲法の下では、少年であっても
基本的人権を保障されるべきである(日本国憲法第11条)ことも、
認めなければなりません。
 したがって、少年の健全育成、
より厳密に言うと非行の早期発見・早期治療の必要性と、
少年の基本的人権の保障のバランスを取るために、
現行少年法が虞犯の成立のために虞犯事由をも必要としたことは妥当である、
と考えます。

 以上の通り昨日と今日は、
保護処分に付される可能性のある少年という点における
旧法と現行法の違いをご説明しました。
 そこで次は、「旧法ではどんな機関が、
どんな手続きで保護処分を決定することとされていたのか」という
話題についてご説明する必要があると思います。
 しかし、明日(8日)から17日まで忙しいので、
この説明を行うことはできません。この説明は18日から開始したいと思います。
 
(注1)田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法(第3版)』(有斐閣、2009年)67頁。
(注2)田宮裕=廣瀬健二編・前掲書65頁。



昨日お約束した通り、今日は、
保護処分に付される可能性のある少年という点においての、
旧少年法と現行少年法の違いについてご説明します。

Ⅰ 旧法第4条第1項によりますと、保護処分に付される可能性のある少年は、
「刑罰法令ニ觸(ふ)ルル行為ヲ為(な)シ又ハ刑罰法令ニ刑罰法令ニ觸ルル行為ヲ
為ス虞(おそれ)アル少年」でした。
これを現代用語に訳した上で分かりやすく書き直してみると、
旧法第4条第1項により保護処分に付される可能性のある少年は
以下の通りです。
1)刑罰法令に触れる行為をした少年。
2)刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年。これを以下、
「虞犯(ぐはん)少年」と呼びます。そして、
この「刑罰法令に触れる行為をする虞」は、「虞犯性」と呼ばれます。

Ⅱ これに対して現行法第3条第1項は、「家庭裁判所の審判に付すべき
少年」として、以下のような少年を規定しています。
「一 罪を犯した少年
 二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
 三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、
   罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
  イ 保護者の正当な監督に服しない性癖(せいへき)のあること。
  ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
  ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、
    又はいかがわしい場所に出入すること。
  ニ 自己又は他人の徳性(とくせい)を害する行為をする性癖のあること。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
 第一号、つまり「一」に当たる少年は、「犯罪少年」と呼ばれます。
 第二号、つまり「二」に当たる少年は、「触法(しょくほう)少年」と
呼ばれます。
 第三号、つまり「三」に当たる少年は、「虞犯少年」と呼ばれます。そして、第三号のうち「その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、
又は刑罰法令に触れる行為をする虞」の箇所は「虞犯性」と、
「イ」から「ニ」までの箇所は「虞犯事由」と、それぞれ呼ばれます。
なお、現行法の下では、家庭裁判所(以下「家裁」と略します)の審判に
付された少年の全てが保護処分に付される訳ではありません(現行法第23条)。
それどころか、家裁の審判に付されたものの保護処分に付されない少年の数は、
かなり多いです(注1)。
ですが、ある少年を家裁の審判に付すことなしに保護処分に付すことは、
絶対に許されませんし、実際にもそのようなことはありません。
ですから、「家庭裁判所の審判に付すべき少年」を定めた現行法第3条第1項は、
保護処分に付される可能性のある少年を定めたものと理解することも
できます。

Ⅲ ⅠとⅡをご覧になった方には、旧法と現行法とでは次のような違いが
あることにお気づきになった方もいらっしゃるでしょう。
A. 現行法では「犯罪少年」と「触法少年」を区別して規定している。
B. 現行法の「虞犯少年」に関する規定には、旧法には存在しなかった
「虞犯事由」(現行法第3条第1項第3号の「イ」から「二」までの箇所)が
存在する。
以下、AとBそれぞれについてご説明します。

Ⅳ ⅢのAでご紹介したように、現行法で「罪を犯した少年」という文言が
用いられたのは、現行法第3条第2項で「家庭裁判所は、
前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者
については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、
これを審判に付することができる。」と規定されたからです。このような
原則は「児童福祉機関先議(せんぎ)の原則」と呼ばれます(注2)。そして、
14歳未満の者について児童福祉機関先議の原則が定められたのは、
そのような「少年は低年齢であり、類型的に心身が未成熟であるため、
少年法に基づく措置よりも、専ら児童の福祉を図ることを目的とする
児童福祉法上の措置(児福26条・27条-原文のまま-)を優先するという
考え方に基づくもの」です(注3)。

Ⅴ と、ここまで書いたところで、時間がなくなってきてしまいました。
このため、ⅢのB.でご紹介した「現行法の『虞犯少年』に関する規定には、
旧法には存在しなかった『虞犯事由』(現行法第3条第1項第3号の
『イ』から『二』までの箇所)が存在する」という点については、
明日ご説明することとします。

(注1)例えば2019年度においては、過失運転致死傷等保護事件および虞犯を除く
一般保護事件については、総人数25,815人のうち17.2%が不処分決定を
受けていますし、過失運転致死傷等保護事件についても総人数10,336人のうち
16.0%が不処分決定を受けています。また、道路交通保護事件については
総人数11,636人のうち8.5%が不処分決定を受けています。法務省法務総合
研究所編『令和2年版犯罪白書』113頁。
(注2)川出敏裕『少年法』(有斐閣、2015年)81頁。なお、「先議」とは、
ある問題についてAという機関がBという機関より先に扱うという意味です。
(注3)川出・前掲注(2)85頁。

昨日の日記の末尾で私は、次のように書きました。
「旧少年法の定める保護処分は9種類ありました。
これに対して、現行少年法の定める保護処分は、
以下の3種類です(現行法第24条第1項)。
『一 保護観察所の保護観察に付すること。
 二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
 三 少年院に送致すること。』
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
これだけをご覧になると、次のように思われる方も少なくないでしょう。
『非行少年と言っても十人十色であろう。だとすれば、
保護処分の種類は多い方が、個々の少年に合った教育が可能であろう。
だとすれば、旧少年法の方が良い法律なのではないか。』
ですが、このご意見には賛成できません。
しかし、その理由についてご説明する時間的余裕がなくなってきました。
この点については、明日ご説明します。」
今日は、このご説明を行います。

はじめに、ご説明の前提として、復習をかねて、
旧少年法に定められていた9種類の保護処分をご紹介します。
「一 訓戒ヲ加フルコト
 二 学校長ノ訓戒ニ委(まか)スルコト
 三 書面ヲ以(も)テ改心(かいしん)ノ誓約ヲ爲(ナ)サシムルコト
 四 條件(じょうけん)ヲ附(ふ)シテ保護者ニ引渡スコト
 五 寺院、教會、保護團體(ほごだんたい)又ハ適富(てきとう)ナル者ニ
   委託スルコト
 六 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
 七 感化院(かんかいん)ニ送致スルコト
 八 矯正院ニ送致スルコト
 九 病院ニ送致又ハ委託スルコト」(旧法第4条第1項)
このように保護処分の種類が多いことを私が必ずしも良いとは思わない理由は、
次の通りです。
1)第一の理由は、第一号つまり「一」の「訓戒ヲ加フルコト」と、
第三号つまり「三」の「書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ爲サシムルコト」は、
審判を開いて正規の保護処分としてではなくては行えないことではなく、
事実上行えることであり、それで十分であるということです。
例えば、現行法第22条第1項は審判の方式として、
次のように規定しています。
「審判は、懇切を旨として、和(なご)やかに行うとともに、
非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものと
しなければならない
。」(下線は私が引きました。)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
この「非行のある少年に対し自己の非行について内省を促す」ための
働きかけには、当然訓戒、つまりお説教が含まれるものと
理解することができます。実際、「非行のある少年に対し自己の非行について
内省を促す」ことの意味については、次のような解説がなされています。
「少年の非行・生活態度などについて、その受けるべき非難の大きさ、
反社会性・反道徳性などを指摘して、自覚・反省を促し、
更生の意欲を喚起し、自立更生の心構えを高めさせること、
保護者や関係者の問題点を指摘して自覚させ、適正な監護意欲を喚起するなど、
少年の健全育成を目指す誠意と愛情に裏打ちされた厳しさは、保護的な配慮と
矛盾しないばかりか、少年審判を適正に行うには不可欠である。」(注1)

そして、現行法の下では、訓戒は、審判の場面においてだけでなく、
調査(少年法8条・9条)の場面でも「保護的措置」の一環として
行われているそうです(注2)。また、
「書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ爲サシムルコト」に似ている「誓約書の徴取」や
「反省文の提出」も、同じく調査段階における「保護的措置」の一種として
行われているそうです(注3)。
このように「訓戒ヲ加フルコト」と、「書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ
爲サシムルコト」は事実上の措置として行うことができるのですから、
わざわざ正規の保護処分の一種として行う必要性は乏しいでしょう。

2)第二に、旧法第4条第1項第二号つまり「二」の
「学校長ノ訓戒ニ委スルコト」には、昨日書いたように、
「学校に非行が知られてしまう」という重大な欠点があります。
特に高校生や大学生の場合、学校に非行が知られると、
退学処分を受けかねません。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
このため、「少年の健全な育成」を目的↑とする(現行法第1条)
現行法における保護処分の一種として再び採用することは不適切でしょう。

3)第三の理由は、旧法第4条第4号と第5号の以下のような規定と関連します。
 「四 條件ヲ附シテ保護者ニ引渡スコト
  五 寺院、教會、保護團體(ほごだんたい)又ハ適富(てきとう)ナル者ニ
   委託スルコト」
というのは、これらと似ている規定は、現行法の第25条にもあるからです。
現行法の第25条は以下のような規定です。
「(家庭裁判所調査官の観察)
第二十五条 家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
2 家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる。
一 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二 条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。」

ご覧の通り、現行法第25条第2項の第2号と第3号の規定は、
旧法第4条第1項の第4号と第5号の規定とよく似ています。
現行法第25条に定められている「家庭裁判所調査官の観察」は、
「試験観察」と呼ばれています。これは、「少年に対する終局処分を一定期間
留保して、少年の行動等を観察するために行われる中間処分」です(注4)
ですから、同条第2項に定められている「条件を附けて保護者に
引き渡すこと」や「適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること」も
中間処分としての試験観察の付随的措置です。
しかし、そのようなものとしてであれ少年に対して行うことが
できるのですから、わざわざ保護処分として行う必要は乏しいでしょう。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168

4)第四の理由は、現行法には旧法第4条第1項第9項の
「病院ニ送致又ハ委託スルコト」に直接対応する処分がないことと関連します。
というのは、少年院法第4条第1項に少年院の種類として次の4つが
定められているからです。
「第四条 少年院の種類は、次の各号に掲げるとおりとし、
  それぞれ当該各号に定める者を収容するものとする。
  一 第一種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない
   おおむね十二歳以上二十三歳未満のもの(次号に定める者を除く。)
  二 第二種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない
    犯罪的傾向が進んだおおむね十六歳以上二十三歳未満のもの
  三 第三種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がある
   おおむね十二歳以上二十六歳未満のもの
  四 第四種 少年院において刑の執行を受ける者」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC0000000058
このように第3号(「三」の箇所)に定められている「第三種少年院」には、
「心身に著しい障害がある」者が収容されます。そして、「第三種少年院」は
2014年以前は「医療少年院」と呼ばれていました。ですから、
当然病院と同じ施設や機材が備わっています。私も関東医療少年院を
参観させていただいたことがありますが、内部は病院そのものでした。
つまり、「病院ニ送致又ハ委託スルコト」という保護処分そのものは
引き継がれなかったのですが、それは少年院法によって医療少年院が
定められたので、少年法の条文上では引き継ぐ必要がなかったからです。

大変長くなってしまいました。要領を得ない説明で申し訳ありません。
ともあれ、このように旧法と現行法との間では、
保護処分の種類という点で大きな違いがあります。
そして実は、両者の間には、保護処分に付される可能性のある少年という
点においても違いがあります。
しかし残念ながら、今日は時間がなくなってきてしまいましたので、
その違いについては明日ご説明します。

(注1)田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法(第3版)』(有斐閣、2019年)233頁。
(注2)秋田家庭裁判所(武政司郎ほか)「少年事件における
 保護的措置について(2)-調査過程で行われる保護的措置の再検討」
 家庭裁判月報44巻5号(1992年)99-101頁。
(注3)秋田家庭裁判所・前掲注(2)。
(注4)田宮=廣瀬編・前掲(注1)書321頁


12/1にお約束した通り、今日は、
旧少年法の第二の特徴についてご説明します。

対象年齢と同じぐらい分かりやすい旧少年法の特徴は、
以下のような9種類の保護処分(旧法第4条第1項)が定められているという
点にあります。
「一 訓戒ヲ加フルコト
 二 学校長ノ訓戒ニ委(まか)スルコト
 三 書面ヲ以(も)テ改心(かいしん)ノ誓約ヲ爲(ナ)サシムルコト
 四 條件(じょうけんヲ附(ふ)シテ保護者ニ引渡スコト
 五 寺院、教會、保護團體(ほごだんたい)又ハ適富(てきとう)ナル者ニ
   委託スルコト
 六 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
 七 感化院(かんかいん)ニ送致スルコト
 八 矯正院ニ送致スルコト
 九 病院ニ送致又ハ委託スルコト」
なお、これらの保護処分は適宜併せて行うことが
できました(旧法第4条第2項)。つまり、旧法の規定の上では、
1人の少年に対して同時に2種類以上の保護処分を行うことも可能でした。

ここで、旧法第4条第1項に出てくる用語について、ご説明をします。
1)「二」つまり第二号の「学校長ノ訓戒二委(まか)スルコト」は、
非行が学校に知られてしまうという理由で、
実際にはあまり行われていなかったそうです。

2)「五」つまり第五号の「保護團體」とは、
旧少年法の制定と同時並行的に発生した、
少年を保護するための団体のことです。

3)「六」つまり第六号の「少年保護司ノ観察ニ付スルコト」とは、
現行法第24条第1項の定める保護処分の一種である
「保護観察所の保護観察に付すこと」(現行法第24条第1項)
つまり保護観察処分の前身とでも言うべき処分です。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
ただし、旧法の「少年保護司」は、
旧少年法によって新設された保護処分を決定し実行するための機関である
「少年審判所」(旧法第15条)の職員の1種(旧法第18条)です。
「少年保護司」の職務は、
審判を行い保護処分を決定する「少年審判官」(旧法第19条)を
「輔佐」(ほさ)「シテ審判ノ資料ヲ供シ観察事務ヲ掌(つかさど)ル」ことに
ありました。
つまり、旧法の「少年保護司」は、
現行法の家庭裁判所調査官の職務(現行法第8条第2項・第9条・第25条)と
保護観察官の職務を併せて担っていたということもできます。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168

3)「七」つまり第七号の「感化院」とは、
1883年から1899年にかけて設立され、
1900年に制定された感化法という法律によって法的根拠が与えられ、
現在の児童自立支援施設の源流となっている施設です。
http://zenjikyo.org/home/history/
感化院には、以下に掲げる者のうちどれかに該当する者を
入院させることがてぎました。
「一 地方長官ニ於テ満八歳以上十六歳未満ノ者之ニ対スル適当ノ 親権ヲ
   行フ者若ハ適当ノ後見人ナクシテ
   遊蕩」(ゆうとう、酒や女あそびにふけるという意味です)
    又ハ乞丐」(こじき)「ヲ為シ若ハ悪交アリト認メタ者
 二 懲治場(ちょうじじょう)留置ノ言渡ヲ受ケタル幼者
 三 裁判所ノ許可ヲ経テ懲戒場(ちょうかいじょう)ニ入ルヘキ者」
(なお、懲治場とは監獄の一種でして、1880年に制定された旧刑法によって
責任無能力者とされた12歳未満の者と是非の弁別なく罪を犯した12歳以上
16歳未満の者のうち、8歳以上の者を留置することができました。
また、懲戒場とは、親権者がその子を懲戒するために入れることのできた
施設です。2011年改正以前の民法第822条には次のような規定がありました。
 1.親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、
  又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
 2.子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、
家庭裁判所が定める。
ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、
いつでも短縮することができる。」
しかし、感化法の後継法である少年教護法が1948年の児童福祉法の制定
により廃止された後は、民法第822条第1項の定める「懲戒場に
当たる施設は存在しなかったので、第1項後段及び第2項は
実効性に乏しかった」のです。「そのため、
平成23年の改正で懲戒場に関する部分は削除された。」のです。
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC822%E6%9D%A1)

4)旧少年法第4条第1項第八号、つまり「八」に定められている矯正院は、
現在の少年院の前身である施設です。
矯正院には少年審判所から送致された少年を収容し、
矯正教育を行ないました。
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%AF%E6%AD%A3%E9%99%A2-478446
ただ、旧少年法が施行されていた時代でも、矯正院の多くは、
「矯正院」という名称がストレートに過ぎたせいでしょうが、
「少年院」と名乗っていました。私の知る限りでも、現存する少年院の中で、
東北少年院、多摩少年院、浪速少年院は旧少年法の時代からの名称を
引き継いでいます。

話が回りくどくなってしまいました。まとめると、
旧少年法の定める保護処分は9種類ありました。
これに対して、現行少年法の定める保護処分は、
以下の3種類です(現行法第24条第1項)。
「一 保護観察所の保護観察に付すること。
 二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
 三 少年院に送致すること。」
これだけをご覧になると、次のように思われる方も少なくないでしょう。
「非行少年と言っても十人十色であろう。だとすれば、
保護処分の種類は多い方が、個々の少年に合った教育が可能であろう。
だとすれば、旧少年法の方が良い法律なのではないか。」
ですが、このご意見には賛成できません。
しかし、その理由についてご説明する時間的余裕がなくなってきました。
この点については、明日ご説明します。
昨日お約束した通り、今日は、
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対する残り2つのハードルについてご説明します。

1)略式手続(刑事訴訟法第460条~第470条)
その第1は、略式手続です。略式手続については、
刑事訴訟法第460条から第470条までに規定されています。↓
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000131
特に、刑事訴訟法第460条によりますと、
「簡易裁判所は、検察官の請求により、
その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、
百万円以下の罰金又は科料を科することができる。
この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、
その他付随の処分をすることができる。」のです。
(なお、科料(かりょう)というのは刑の一種(刑法第9条)でして、
「千円以上一万円未満」(刑法第17条)の金額のお金を国に納めればいいという、
我が国の現行刑法の上ではもっとも軽い刑です(刑法第10条第1項)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
また、「簡易裁判所の管轄に属する事件」とは、
「罰金以下の刑に当たる罪、選択刑として罰金が定められている罪又は
 刑法第百八十六条、第二百五十二条若しくは 第二百五十六条の罪に係る
訴訟」のことです(裁判所法第33条第1項第2号)↓。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000059)
この略式手続も、かなり活用されています。
たとえば、2019年度でも、199,759人もの人たちが、
略式手続で罰金刑か科料刑を言い渡されています(注1)。↓
https://www.moj.go.jp/content/001338445.pdf
罰金刑や科料刑は、お金を国に納めれば済んでしまう刑です。
ですから、20万人近くもの成人が、有罪を認定されながらも、
お金を国に納めるだけで済まされているのです。
これでは、「厳しく扱われている」とは思われない方も、
少なくないと思います。

2)刑の全部の執行猶予(刑法第25条~第27条)
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対する最後のハードルは、
刑の全部の執行猶予です。これについては、
刑法第25条から第27条までに規定されています。↓
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
刑の全部の執行猶予も、大いに活用されています。
https://www.moj.go.jp/content/001338445.pdf
例えば、↑2019年度に裁判が確定した人数245,537人について見ますと、
有期懲役が確定した人46,086人のうち実に28,044人つまり率に換算すると
60.9%、有期禁錮が確定した人3,076人のうち実に3,021人
つまり率に換算すると98.2%が、刑の全部の執行を猶予されています(注2)。
そして、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなく
その猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、
効力を失う」のです(刑法第27条)。
つまり、刑の執行を猶予されている期間をおとなしく過ごせば、
刑の言い渡しはなかったことにされる、
言い換えると刑務所に行かずに済むのです。
これでは「厳しく扱われている」とは言い難いでしょう。

長くなりました。昨日のブログからこれまでの内容を要約しますと、
「仮に旧少年法のように18歳以上を大人扱いしても、
それらの者が罪を犯した場合、
微罪処分・起訴猶予・略式手続・執行猶予という制度があるので、
厳しく扱われないことが多い」ということになります。

以上ここまでで、旧少年法の特徴として、
現行少年法と比較して一番分かりやすい、
対象年齢が18歳未満であることをご説明しました。
ですが、旧少年法の特徴は他にもまだ色々あります。
しかし残念ながら、今日も時間がなくなってしまいましたので、
その特徴についてご説明することはできません。
しかも、明日・明後日と忙しいのです。
ですから、旧少年法の別の特徴についての説明をするのは、
今度の土曜日つまり12/4にさせていただきます、

(注1)法務省法務総合研究所編『令和2年版犯罪白書』40頁。
(注2)法務省法務総合研究所編・前掲書36頁。

おととい(11/28)お約束した通り、今日は、現代の18歳を、
旧少年法の時代の18歳と同様に大人扱いすることには賛成できない
より実質的な理由をご説明します。

冒頭にその理由をご説明すると、
「18歳を大人扱いすると、彼ら・彼女たちが罪を犯した場合に
厳しく処罰し責任を問うことにはならないことが多い」ということです。
どうしてこんなことを言うのかと言いますと、
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対して以下にご説明するようなハードルが
あるからです。
1)微罪(びざい)処分(刑事訴訟法第246条ただし書)
第1のハードルは、微罪処分です。これは、
「刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)246条ただし書に基づき,
検察官があらかじめ指定した犯情の特に軽微な成人による事件について,
司法警察員が,検察官に送致しない手続を執ること」です。
https://www.moj.go.jp/content/001338445.pdf
なお、ご参考までに刑事訴訟法第246条ただし書きにつきましては、
↓以下に貼るリンクをご覧になって下さい。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000131
話がそれましたが、微罪処分の手続きが執られますと、
事件は検察官に送致されませんから、
検察官はこれを裁判所に起訴することができません。
つまり、微罪処分の執られた事件は、警察限りで終わってしまうのです。
そして、2021年に微罪処分により処理された人員は,5万5,764人で、
そのうち刑法犯では,微罪処分により処理された人員は5万5,754人であり,
全検挙人員に占める比率は28.9%です(注1)
なお、「刑法犯」の意味については、
以下のリングをご覧になって下さい。
https://www.moj.go.jp/content/001338442.pdf
また「検挙」とは被疑者(マスコミでは容疑者と呼ばれます)を
特定することです、
いずれにせよ、微罪処分により、5万6千人近くもの人が、
罪を犯した疑いを持たれながらも、警察限りで放免されてしまうのです。

2)起訴猶予(刑事訴訟法第248条)
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対する第2のハードルは、起訴猶予です。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000131
起訴猶予については、↑刑事訴訟法第248条によって、
「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により
訴追」(そつい)「を必要としないときは、
公訴を提起しないことができる」と規定されています。
この起訴猶予制度は、大変活用されています。
なぜなら、2019年度における検察官終局人員総数のうちの起訴猶予率は
64.5%、刑法犯の起訴猶予率は51.7%、
道交法違反を除く特別法犯の起訴猶予率は45.4%なのです(注2)。
https://www.moj.go.jp/content/001338445.pdf
そして、起訴猶予は少年に対しては行うことができません。
ですから、仮に18~9歳の者を成人扱いすると、
起訴猶予が可能になるので、彼ら・彼女らが罪を犯した疑いを持たれても、
そのかなりの部分は起訴猶予で終わってしまうであろうと予想できるのです。
そして、私が思うに、今度の少年法「改正」に際して、
少年法適用年齢を単純に18歳未満の者に引き下げる案が採用されなかった
一つの理由は、起訴猶予制度が活用されていることにあるのでしょう。

長くなりました。実のことを言うと、
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対するハードルは更に2つあります。
しかし残念ながら、今日は時間がなくなってしまいました。
現在20歳以上の人たちが罪を犯した(とされた場合)、
刑務所に拘置されることに対する残り2つのハードルについては、
明日ご説明します。

(注1)法務省法務総合研究所編『令和2年版犯罪白書』30頁。
(注2)法務省法務総合研究所編・前掲書34頁。
昨日お約束した通り、本日から、
1922年に制定された旧少年法のあらましを、
形式的にはその改正として1948年に成立した現行少年法と比較する形で、
ご説明することといたします。
なお、そのご説明に際して、旧少年法の条文は「旧法X条」と、
現行少年法の条文は「現行法Y条」と、それぞれ略記することといたします。

本日は、旧少年法のあらましについてのご説明の第1回として、
旧少年法の対象となった少年の年齢の範囲についてご説明します。

旧少年法における「少年」とは、「十八歳ニ満タザル者」(旧法第1条)、
つまり18歳未満の者でした。
これに対して現行少年法における「少年」とは、
ご存知の方も少なくないと思いますが、
「二十歳に満たない者」(現行法第2条第1項)、↓つまり20歳未満の者です。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000168
以上のご説明だけをお読みになった方には、
「満18歳となればもう十分大人だ。だから大人として扱い、
罪を犯した場合には厳しく刑罰を科しその責任を問うべきであり、
そういう意味で旧少年法の方が正しい」と思われた方も多いでしょう。
しかし、このご意見には、以下に挙げる2つの理由で、賛成できません。

第1の理由は、旧少年法が制定された時代が、
昨日のブログをご覧になればお分かりの通り、
20世紀の前半であることと関連します。
というのは、この時代においては、「1935年の旧制中学校、実業学校、
高等女学校の進学率は18.5%に過ぎなかった」のです。↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A7%E5%88%B6%E4%B8%AD%E7%AD%89%E6%95%99%E8%82%B2%E5%AD%A6%E6%A0%A1
ですから、この時代に尋常小学校(1941年以降は国民学校)を
卒業した人たちの圧倒的大多数は、
工場での単純労働や商店での丁稚奉公や子守りとしてであれ
働いていましたので、18歳は十分に大人だったのです。
これに対して現代の18歳はどうでしょうか?
18歳は高校3年生か大学・短大1年生に当たります。
2019年度の大学・短大への進学率は、18歳人口の58.1%にのぼり、
これに高専4年次と専門学校への進学率を足すと、
18歳人口の実に82.8%にものぼります。
https://www.mext.go.jp/content/20201126-mxt_daigakuc02-000011142_9.pdf
つまり現在では、18歳の人たちの80%以上が何らかの学校に
所属しているのです。
そして、高校を卒業した後にすぐ就職した人たちの大部分も、
見習い程度の仕事しかさせてもらえないのではないでしょうか。
ですから、現代における18歳は、
旧少年法が制定された頃の18歳と比べると、
大人ではないと言えると思います。
このため、現代の18歳を、
旧少年法の時代の18歳と同様に大人扱いすることには賛成できません。

しかし、現代の18歳を、
旧少年法の時代の18歳と同様に大人扱いすることには賛成できない
より実質的な理由があります。
でも、今日は疲れてしまったので、
その理由をご説明することはできません。
明日は忙しいので、このご説明は、
明後日(30日)に行わせていただかざるを得ません。
穂積陳重(ほづみ・のぶしげ)という人物が登場しています。
https://www.nhk.or.jp/seiten/cast/
彼は「イギリス留学から帰国後、明治14年に東京大学法学部の講師に就任し、」
渋沢栄一の娘「歌子とお見合い結婚」しました。穂積は「その後、
法学者として日本の民法制定などに貢献」しました。
実を言うとこの穂積陳重は、日本の少年法の歴史を学ぶ上でも、
重要な位置を占めています。
彼は1906年ごろ、アメリカ合衆国を訪れています。
実はその直前の1899年、
アメリカのイリノイ州のクック郡(シカゴがある所です)に、
世界最初のjuvenile court(少年裁判所)が創設されました。
初期の少年裁判所の審理は公開されていました(注1)
穂積も傍聴しました。
実際、1907年に日本に帰ってきた穂積は、
同年の5月に「米国ニ於ケル小供裁判所」(注2)と題する講演を行い、
その際に以下のようなことを述べているのです。
「此」(この)「時は、判事『リンゼー』は裁判官の高座より降りて
児童等と同席し、如何」(いか)「にも心配なる様子で、一々報告簿を調べ、
良き記入あるときは喜んでこれを賞揚し、他の児童にも示し、
若」(も)「し其」(そ)「の記入の不良なるときは、
同情を以」(も)「って其の原因を糺」(ただ)「し、
或」(あるい)は「叱り、或いは励まし、或いは慰め、
諄々」(じゅんじゅん)として其の改悛」(かいしゅん)「の方法を
説き聞かせ、または前の判決を改め、如何なる腕白小僧も
溢」(あふ)「る如」(ごと)「き慈愛の温かみを感じて、
自然に信頼の念を起こしむるに至ると云」(い)「ふことであります。」

なおここでの「リンゼー」判事は、注(1)で引用した文献では
「ベンジャミン・リンジー判事」と表記されていまして(注3)、
「デンヴァー少年裁判所の著名な判事」でした(注4)。

話を「米国ニ於ケル小供裁判所」という講演に戻しますと、
この講演を1つの大きなきっかけとして、
日本でも少年法を制定しようという運動が始まりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E5%BE%8B%E5%8F%96%E8%AA%BF%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
つまり、↑司法省法律取調委員会(法典の起草を行う委員会)が
刑訴法委員会特別部会として「少年犯罪ニ関スル法律案特別委員会」を
組織して、委員長に穂積を選出して、
1912年2月に新法案の審議を開始しました。
この新法案の審議は、いろいろな理由で、非常に難航し、
「少年法案」として帝国議会に提出されたのは、
実に7年後の1919年の暮れになってのことでした(注5)。
この「少年法案」の帝国議会での審議も、かなり難航しまして、
議会通過にこぎつけたのは1922年の3月になってのことでした(注6)。
そうです。戦前にも「少年法」という名前の法律がありました。
これを「旧少年法」と言いますが、来年2022年は、
旧少年法制定から100年という記念すべき年なのです。
ですから、私は、旧少年法誕生100年を勝手に記念すべく、
この法律のあらましをここDiary Noteにご紹介するつもりでした。
これをいつやろうか、悩んでいたのですが、
「旧少年法」の起草に深く関わった穂積陳重が渋沢栄一の娘婿と
知りましたから、明日から行おうと思います。
かなり法律学的な話になってしまいますが、できるだけ分かりやすく、
現行少年法のあらましと比較する形で行うつもりですので、
ご一読いだたければ幸いです。

 (注1)この点について例えば、デビッド・S・タネンハウス著、石川正興監訳
  『創生期のアメリカ少年司法』(成文堂、2015年)44頁、53頁を
  参照されたし。
 (注2)森田明『未成年者保護法と現代社会-保護と自律のあいだ-』
  (有斐閣、1999年)202頁からの引用。
 (注3)タンネンハウス・前掲注(1)書185頁、196頁。
 (注4)タンネンハウス・前掲注(1)書196頁。
(注5)森田・前掲(注2)書204-210頁。
 (注6)森田・前掲(注2)書212-221頁。
昨日のブログで書いた通り、
私は遅刻が大嫌いです。
それも、自分が遅刻するのが嫌いなだけならまだしも、
他人が遅刻することも嫌いなのです。
このため、大失敗をしてしまったことがあります。
それは、今から16年も前の2005年の、確か11月のことでした。
当時私は、某大学の非常勤講師をさせていただいていました。
非常勤講師といっても、週1コマだけで、
学部2年生の必修科目とされていた法学基礎演習(要するに基礎ゼミ)を
担当させていただいていました。
当時の私がどんな非常勤講師だったかと言いますと、
採点は比較的甘めだったと思うのですが、
欠席や遅刻にはできる限り厳格に対処していました。
特に、遅刻に関しては、
2行目に書いたようにもともと遅刻嫌いだったこともあって、
授業開始時刻から20分以上経って教室に入ってきた学生さんに対しては、
まさに容赦なく、何らの情状酌量の余地も認めずに、
欠席扱いしていました。
このことが大失敗の1つの背景となっています。
私が大失敗したその日の授業では、
学部1年生の皆さん約20名が、ゼミ履修登録の参考とすべく、
見学に訪れていました。
このことも失敗の要因の1つとなっています。
話を元に戻しますと、問題の授業が始まって20分経って、
ある女子学生さん(その人の名誉のため仮にXさんとします)が入室しました。
これを見た私は、「私が遅刻に厳しい態度を取っていることを
1年生の皆さんに知らせれば、彼ら・彼女は『20分以上の遅刻は
絶対に許されないことなのだ』ということを分かってくれるだろう」と
思ったのです。
そこで、私はXさんに、「Xさん、20分以上の遅刻ですよ。
ですから今日は欠席扱いとします」という意味のことを言いました。
これに対してXさんは「分かってます」と答えたのですが、
それから先が問題だったのです。
というのは、Xはその隣に座っていたYさんという、
実は韓国人のお祖父さんのいる中国からの女子留学生に、
私からは聞き取れないような小声で何か話しかけたのです。
このことが私の怒りに火をつけ、大失敗の直接的な原因となりました。
なぜ私が怒ったかと言いますと、
私は授業中の私語に対しても厳しい態度を取っていまして、
学生さんたちにも「授業中の隣の人とのおしゃべりは絶対に許しません」と
言う意味のことを、毎年度最初の授業で伝えていたからです。
このため、怒った私は「Xさん、今隣の人とおしゃべりしましたね。
Xさんが警察官や刑務官になりたい人のための課外授業を履修していることを
知っているので、非常に残念です」という意味のことを、
大声で言ってしまったのです。
これが大失敗でした。
というのは、これを聞いたXさんは、下級生約20名、
同級生17~8名の見ている前で、
涙を流してシクシク泣き出してしまったのです!!
どんな事情があるにせよ、学生さんを泣かせるなんて、
大学教員として絶対にあるまじきことです。
今こんなことをした大学教員がいたら、
「アカデミック・ハラスメント」(学校での嫌がらせ)をしたとして、
たちまちクビが飛んでいたでしょう。
今考えても、本当にバカげたことをしたと思い、
恥ずかしくてたまりません。
https://41431.diarynote.jp/202111190754155554/
私は遅刻を非常に嫌がります。
その嫌がりようは、自分で言うのも何ですが、
「病的に」嫌がると言っていいほどなのです。
なぜ「病的に」などとという大げさと思われても仕方のない
形容をしたかと言いますと、
私は「遅れるかもしれない」と思うと、
「急がなければならない」という一種のバニック状態に陥り、
不安で不安でたまらなくなってしまうからです。

どうしてこのようなパニック状態に陥るのか、
自分でもよく分かりません。
あるいは、原因が分かっていたらこのような状態にならないかもしれません。
ただ、1つだけ思い当たるフシがなくはありません。
それは確か7歳か8歳だった頃、
私は「ヤマハ音楽教室」の(確か)幼児科に通っていたのですが、
その発表会に、理由は思い出せないのですが遅刻してしまったことが
あったのです。
その時物凄く嫌で悲しい感じがして、
公衆の面前にもかかわらずワンワン泣いてしまったのです。
このことがトラウマ(と言っていいのか分からないのですが)になって、
遅刻が大嫌いになったのかもしれないと思います。

しかし、上記のことをもってしても、
「遅刻するかもしれない」と思っただけで強いパニック状態に陥ってしまう
理由としては不十分であると思われてなりません。

もっとも、理由はあまり重要ではないかもしれません。
より重要なのは、「遅刻するかもしれない」と思っただけで
強いパニック状態に陥らないことです。
ただ、そのためにはどうすればいいのか、
自分でもよく分かりません。
実を言うと私、自律神経失調症のため、
20年以上にもわたって心療内科に通院しています。
幸い現在のところ、自律神経失調症の症状は比較的落ち着いています。
ですから、今度診察を受けるには、
「遅刻するかもしれない」と思っただけで強いパニック状態に陥らないためにはどうすればいいか、先生に尋ねてみようかと思います。



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