一昨日のブログでお約束した通り、
今日は旧法第10条についてご説明します。
Ⅰ 旧法第10条は以下のような規定でした。
「第十條 少年ニシテ懲役又ハ禁錮ノ言渡」(いいわたし)「ヲ受ケタル者ハ
左」(さ)「ノ期間ヲ経過シタル後假出獄」(かりしゅつごく)「許ス
コトヲ得
一 無期刑ニ付」(つい)「テハ七年
二 第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ三年
三 第八条第一項及」(および)「第二項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ
其ノ刑ノ短期ノ三分ノ一」
Ⅱ 「假出獄」、現代的表記では「仮出獄」とは、「懲役または禁固刑に
処せられた者が、刑執行中に改悛したと認められる場合、行政処分により、
刑期の終了前に一定の条件をつけて釈放すること」です。
Ⅲ 旧法第10条第2号、つまり「ニ 第七條」から「三年」までの部分の
「第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑」とは、
犯罪行為時16歳未満であった者に、死刑または無期刑をもって処断すべき
場合に、これらの刑に替えて言い渡すべき十年以上十五年以下の刑のことです。
ですから、例えば死刑をもって処断すべきであったのに、犯罪行為時
16歳未満であったことを理由に15年の懲役刑に処された者であっても、
3年経過すれば仮出獄が許可される可能性があったのです。
Ⅳ 旧法第10条第3号、つまり「三 第八条第一項」から
「三分ノ一」までの部分の、「第八条第一項及第二項ノ規定ニ依リ
言渡シタル刑」とは、相対的不定期刑のことです。
この相対的不定期刑で最も重いものは「5年以上10年以下の懲役」でした。
ですから、この刑に処された者は、旧法第10条第3号によって、
短期の5年の1/3、つまり1年8か月経過すれば仮出獄が許可される可能性が
あったのです。
Ⅴ 旧少年法が制定された1922年時点で既に、成人受刑者にも
仮出獄は認められていました。この「仮出獄」という用語は、
1995年に刑法が現代用語化された時に「仮釈放」に改められましたが、
要件は変わっていません。その要件とは、受刑者に改悛の状があり、
有期刑については刑期の3分の1、無期刑については10年を経過している
ことです(刑法第28条)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
ですから、旧少年法においては、特に無期刑に処された者に対する
仮出獄の要件を、成人と比べて大幅に緩和していました。
Ⅵ 現行少年法にも、仮釈放に関する特別な規定はあります。
それは以下のようなものです。
「(仮釈放)
第五十八条 少年のとき懲役又は禁錮の言渡しを受けた者については、
次の期間を経過した後、仮釈放をすることができる。
一 無期刑については七年
二 第五十一条第二項の規定により言い渡した有期の刑については、
その刑期の三分の一
三 第五十二条第一項又は同条第一項及び第二項の規定により言い渡した刑に
ついては、その刑の短期の三分の一
2 第五十一条第一項の規定により無期刑の言渡しを受けた者については、
前項第一号の規定は適用しない。」
1.無期刑については7年経過すれば仮釈放が可能になる点は、旧法と同じです。
2.現行法第58条第1項第2号、つまり「二」の部分の「第五十一条第二項の
規定により言い渡した有期の刑」とは、無期刑で処断すべき場合に
犯罪行為時18歳未満であったことを理由に言い渡される10年以上20年以下の
刑のことです。ですから、最長でも20年の1/3つまり6年8か月経過すれば
仮釈放が可能になります。
3. 「第五十二条第一項又は同条第一項及び第二項の規定により言い渡した刑」
とは相対的不定期刑のことです。現行少年法の下で最も重い相対的不定期刑は、
「10年以上15年以下の懲役」ですから、これに処された者は短期の10年の
1/3、つまり3年4か月経過すれば仮釈放が可能となります。
4.「第五十一条第一項の規定により無期刑の言渡しを受けた者」とは、
犯罪行為時18歳未満であったため、死刑をもって処断すべきなのに、
無期刑を言い渡された者という意味です。この場合には
少年法第58条第1項第1号の適用が排除され「刑法28年の原則通り10年が
仮釈放期間となる」のです。この点については次のような解説が
なされています。
「この場合には51条1項により既に刑の緩和がなされており、仮釈放期間の
特則をも適用するといわば二重に刑の緩和を認めることとなるが、
死刑相当事案は極めて凶悪重大な犯罪であるから、このような緩和を
認めることは、被害感情、社会一般の正義感情等に照らして相当でない
ことから、平成12年改正により改められたものである。」(注)
Ⅶ 長くなりました。これで旧法第10条についてのご説明を終わらせて
いただきます。それと同時に、旧法の定める少年に対する刑事処分の
特則についてのご説明を終わらせていただきます。次は、旧少年法の
あらましについてのご説明の最終回として、第74条について
ご説明したいのですが、明日・明後日と忙しいので、15日に
ご説明させていただきます。
(注)甲斐行夫=入江猛=飯島泰=加藤俊治=岡健太郎=岡田伸太=本田能久=
安永健次「少年法等の一部を改正する法律及び少年審判規則の一部を改正する
規則の解説」『法曹会新法解説叢書17』(2002年)233頁。
今日は旧法第10条についてご説明します。
Ⅰ 旧法第10条は以下のような規定でした。
「第十條 少年ニシテ懲役又ハ禁錮ノ言渡」(いいわたし)「ヲ受ケタル者ハ
左」(さ)「ノ期間ヲ経過シタル後假出獄」(かりしゅつごく)「許ス
コトヲ得
一 無期刑ニ付」(つい)「テハ七年
二 第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ三年
三 第八条第一項及」(および)「第二項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ
其ノ刑ノ短期ノ三分ノ一」
Ⅱ 「假出獄」、現代的表記では「仮出獄」とは、「懲役または禁固刑に
処せられた者が、刑執行中に改悛したと認められる場合、行政処分により、
刑期の終了前に一定の条件をつけて釈放すること」です。
Ⅲ 旧法第10条第2号、つまり「ニ 第七條」から「三年」までの部分の
「第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑」とは、
犯罪行為時16歳未満であった者に、死刑または無期刑をもって処断すべき
場合に、これらの刑に替えて言い渡すべき十年以上十五年以下の刑のことです。
ですから、例えば死刑をもって処断すべきであったのに、犯罪行為時
16歳未満であったことを理由に15年の懲役刑に処された者であっても、
3年経過すれば仮出獄が許可される可能性があったのです。
Ⅳ 旧法第10条第3号、つまり「三 第八条第一項」から
「三分ノ一」までの部分の、「第八条第一項及第二項ノ規定ニ依リ
言渡シタル刑」とは、相対的不定期刑のことです。
この相対的不定期刑で最も重いものは「5年以上10年以下の懲役」でした。
ですから、この刑に処された者は、旧法第10条第3号によって、
短期の5年の1/3、つまり1年8か月経過すれば仮出獄が許可される可能性が
あったのです。
Ⅴ 旧少年法が制定された1922年時点で既に、成人受刑者にも
仮出獄は認められていました。この「仮出獄」という用語は、
1995年に刑法が現代用語化された時に「仮釈放」に改められましたが、
要件は変わっていません。その要件とは、受刑者に改悛の状があり、
有期刑については刑期の3分の1、無期刑については10年を経過している
ことです(刑法第28条)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
ですから、旧少年法においては、特に無期刑に処された者に対する
仮出獄の要件を、成人と比べて大幅に緩和していました。
Ⅵ 現行少年法にも、仮釈放に関する特別な規定はあります。
それは以下のようなものです。
「(仮釈放)
第五十八条 少年のとき懲役又は禁錮の言渡しを受けた者については、
次の期間を経過した後、仮釈放をすることができる。
一 無期刑については七年
二 第五十一条第二項の規定により言い渡した有期の刑については、
その刑期の三分の一
三 第五十二条第一項又は同条第一項及び第二項の規定により言い渡した刑に
ついては、その刑の短期の三分の一
2 第五十一条第一項の規定により無期刑の言渡しを受けた者については、
前項第一号の規定は適用しない。」
1.無期刑については7年経過すれば仮釈放が可能になる点は、旧法と同じです。
2.現行法第58条第1項第2号、つまり「二」の部分の「第五十一条第二項の
規定により言い渡した有期の刑」とは、無期刑で処断すべき場合に
犯罪行為時18歳未満であったことを理由に言い渡される10年以上20年以下の
刑のことです。ですから、最長でも20年の1/3つまり6年8か月経過すれば
仮釈放が可能になります。
3. 「第五十二条第一項又は同条第一項及び第二項の規定により言い渡した刑」
とは相対的不定期刑のことです。現行少年法の下で最も重い相対的不定期刑は、
「10年以上15年以下の懲役」ですから、これに処された者は短期の10年の
1/3、つまり3年4か月経過すれば仮釈放が可能となります。
4.「第五十一条第一項の規定により無期刑の言渡しを受けた者」とは、
犯罪行為時18歳未満であったため、死刑をもって処断すべきなのに、
無期刑を言い渡された者という意味です。この場合には
少年法第58条第1項第1号の適用が排除され「刑法28年の原則通り10年が
仮釈放期間となる」のです。この点については次のような解説が
なされています。
「この場合には51条1項により既に刑の緩和がなされており、仮釈放期間の
特則をも適用するといわば二重に刑の緩和を認めることとなるが、
死刑相当事案は極めて凶悪重大な犯罪であるから、このような緩和を
認めることは、被害感情、社会一般の正義感情等に照らして相当でない
ことから、平成12年改正により改められたものである。」(注)
Ⅶ 長くなりました。これで旧法第10条についてのご説明を終わらせて
いただきます。それと同時に、旧法の定める少年に対する刑事処分の
特則についてのご説明を終わらせていただきます。次は、旧少年法の
あらましについてのご説明の最終回として、第74条について
ご説明したいのですが、明日・明後日と忙しいので、15日に
ご説明させていただきます。
(注)甲斐行夫=入江猛=飯島泰=加藤俊治=岡健太郎=岡田伸太=本田能久=
安永健次「少年法等の一部を改正する法律及び少年審判規則の一部を改正する
規則の解説」『法曹会新法解説叢書17』(2002年)233頁。
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