昨日のブログでお約束した通り、
今日は旧法第8条についてご説明します。

Ⅰ 第1に、旧法第8条は以下のような規定でした。
「第八條 少年ニ對」(たい)「シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ
   以」(もっ)「テ處斷」(しょだん)「スヘキトキハ其ノ刑ノ
   範圍」(はんい)「内ニ於」(おい)「テ短期ト長期トヲ定メテ
   之」(これ)「ヲ言渡スヘシ但シ短期五年ヲ超ユル刑ヲ以テ
   處斷スヘキトキハ短期ヲ五年ニ短縮ス
  前項ノ規定ニ依リ言渡スヘキ刑ノ短期ハ五年長期ハ十年ヲ
   超ユルコトヲ得ス
  刑ノ執行猶豫」(ゆうよ)「ノ言渡ヲ爲」(な)「スヘキトキハ
   前二項ノ規定ヲ適用セス」

Ⅱ 第2に、旧法第8条第1項本文、つまり「少年ニ」から
「言渡スヘシ」の部分についてご説明します。
 まず、「少年ニ對シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ以テ
處斷スヘキトキハ」とは、法定刑に対して再犯加重、法律上の減軽、
併合罪加重、酌量減軽をほどこした結果、一番重い刑が3年以上の
有期の懲役または禁錮になったという意味です。例えば、
傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」(刑法第205条)で、
累犯加重または併合罪加重のない場合には
最長で20年(刑法第12条第1項)ですから、傷害致死罪は
「少年ニ對シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ以テ
處斷スヘキトキ」に当たります。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
 次に、「其ノ刑ノ範圍内ニ於テ短期ト長期トヲ定メテ
之ヲ言渡スヘシ」とは、その罪に対して定められた刑の範囲内で
短期と長期を言い渡すべし、という意味で、
例えば「被告人をX年以上Y年以上の懲役に処す」という判決を
言い渡すべしということです。この制度は「相対的不定期刑」と呼ばれます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E7%9A%84%E4%B8%8D%E5%AE%9A%E6%9C%9F%E5%88%91

Ⅲ 第3に、旧法第8条第1項但し書き、つまり「但シ」から
「短縮ス」の部分は、法定刑に対して再犯加重、法律上の減軽、
併合罪加重、酌量減軽をほどこした結果、一番軽い刑が5年を超えた場合、
それを5年に短縮しなければならないという意味です。例えば、
強盗致傷罪の法定刑は「無期又は6年以上の懲役」(刑法第240条)ですから、
自首による減軽または酌量減軽がない場合、「短期五年ヲ超ユル刑ヲ以テ
處斷スヘキトキ」に当たります。ですから、例えばある少年が強盗致傷罪で
有罪を認定された場合、「被告人を5年以上10年以下の懲役に処する」
という判決を言い渡される可能性がありました。

Ⅳ 第4に、旧法第8条第2項、つまり「前項ノ規定」から
「得ス」の部分は、「少年に対して言い渡すことができる不定期刑で
最も重いのは、『被告人を5年以上10年以下の懲役に処す』という判決である」
という意味です。

Ⅴ 第5に、旧法第8条第三項、つまり「刑ノ執行猶豫」から
「適用セス」の部分は、「刑の執行猶予をすべきときは、
不定期刑の規定は適用してはならない」、つまり刑の執行猶予をすべきときは、
例えば「被告人を懲役3年に処す。なお、本判決確定の日から
5年間その刑の執行を猶予する」というように定期刑で言い渡さなければ
ならない、という意味です。

Ⅵ 第6に、現行法もその第52条に不定期刑の規定を置いています。
それは以下のように複雑なものです。
「(不定期刑)
第五十二条 少年に対して有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきときは、
処断すべき刑の範囲内において、長期を定めるとともに、長期の二分の一
(長期が十年を下回るときは、長期から五年を減じた期間。次項において
同じ。)を下回らない範囲内において短期を定めて、これを言い渡す。
この場合において、長期は十五年、短期は十年を超えることはできない。
2 前項の短期については、同項の規定にかかわらず、
少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるときは、
処断すべき刑の短期の二分の一を下回らず、かつ、長期の二分の一を
下回らない範囲内において、これを定めることができる。
この場合においては、刑法第十四条第二項の規定を準用する。
3 刑の執行猶予の言渡をする場合には、前二項の規定は、
これを適用しない。」
 このため、現行法において少年に対して言い渡すことのできる
最も重い不定期刑は「被告人を10年以上15年以下の懲役に処する」
というものです。
 また、現行法第52条第3項、つまり「3 刑の執行猶予」から
「適用しない。」までの部分をご覧になればお分かりの通り、
現行法の下でも執行猶予を言い渡す場合には不定期刑は適用できず、
定期刑で言い渡さなけばなりません。しかし、このような制度については、
以下のような意見もあります。
 「本条(第52条のことです)3項は、不定期刑は行刑上の効果に狙いがある
ところから、執行猶予の場合に不定期刑を言渡すことは意味がないと
考えたものと思われる、しかし、執行猶予が取消された場合には、
定期刑が執行されることになり、不定期刑の利点を受ける余地がない。
立法論としては、執行猶予が取消された場合には、この程度の
不定期刑を受けると警告を与える意味から、不定期刑を言い渡して
執行猶予に付するという方法もあり得るであろう。」(注)

Ⅶ 長くなりました。これで旧法第8条についてのご説明を終わらせて
いただきます。明日は、旧法第9条についてのご説明をします。

 (注)田宮裕=廣瀬健二編『注釈少年法(第3版)』(2009年、有斐閣)469頁。

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